日本の折り紙が海外で人気になっている理由とは

1.世界が賞賛する日本の折り紙文化将棋と並ぶ日本文化の精華が、折り紙です。こちらは将棋のように外国のものを改良したものではなく日本のオリジナルという意味です。欧米をはじめ、多くの国で普及しています。

海外でも折り紙は大人気になっています。
ニューヨークには、世界19カ国に1600人以上のメンバーがいる「Origami USA」という折り紙愛好団体があります。
それ以外にも約100種類の折り紙の折り方を、動画で紹介するYoutubeチャンネルで折り紙を折るのは外国人の男性です。もちろん動画の中では英語で解説していたりします。

海外で折り紙が人気になっている理由はさまざまな知育効果があるとされています。折り紙愛好団体があるアメリカでは思考力を養うためのアイテムとして、教育現場でも積極的に取り入れられています。

もちろん見た目のデザインもアート性が高いので、折り紙の展示会やコンテストなどのイベントも開催されています。
折り紙を通していろいろなコミュニケーションがとれるのも魅力のひとつになっています。

紙そのものを発明したのは中国人で、これは中国の人類に対する最大の貢献と言ってよいでしょう。紙というと、ペーパーの語源になっているエジプトのパピルスがルーツだと思っている人が多いようですが、パピルスは紙の原型とは言えません。

カミガヤツリという植物の茎を縦に裂いて糊でつなぎ合わせたもので、折ると割れてしまう欠点を持つため、パピルスは巻物として保存するしかないのです。

一方、中国で発明された紙は、植物の繊維をバラバラにして固め、薄く引き延ばしたもので、パピルスと違って折り畳むことができます。この紙によって、人類は初めて本や冊子の形で情報をファイルし、伝達することができるようになりました。

中国を含めて世界中の民族は、紙を情報ツールとしてしか利用しませんでしたが、日本民族だけは違いました。折り畳めるという紙の特性に注目し、情報ツール以外にも利用したのです。紙が日本に伝来したのは610年のことで、高句麗の曇徴という名の僧侶がもたらしました。以来、紙は書類に使われ、室町時代には小笠原流や伊勢流といった書類を美しく折り畳む流派が確立しています。鑑定書のことも「折紙」と呼んだことから、今でも品質を保証することを「折紙付き」と呼んでいます。お祝いの進物に添える焚斗も、折紙の一例です。

鑑定書の「折紙」とはまた違い、現代の私たちが知っている「折り鶴」や「風船」のような紙の造形が「折り紙」です。こちらは、室町時代に宮廷の官女が主体になって始めたものと見られます。そして、この折り紙こそが、日本が世界に誇る芸術なのです。
外国人が「折り鶴」のようなものを作ろうとした場合、おそらく糊とハサミで切ったり張ったりするに違いありません。しかし、折り紙は、頭と手を使い、1枚の紙から折っていきます。つまり、折り紙は「紙は正方形」「糊とハサミは使わない」という厳しい条件の下で、技を競う文化なのです。

これは、俳句や和歌(短歌)にも、同じことが言えます。俳句は「五・七・五」という限られた字数で、しかも季語を入れるという厳しい条件が課せられています。和歌の場合も「五・七・五・七・七」という音律を守って、言葉の技を競うものです。世界広しといえども、こうした技のオリンピックなら、日本民族は絶対に負けることはありません。折り紙は、その金メダルとも言える芸術なのです。

もうひとつ、折り紙の特徴であり、日本文化が世界に誇れる特徴として、その均質性が挙げられます。世界のほとんどの国では、上流階級と下層階級の文化はまったく異なり、しかも相互の交流が絶たれています。しかし、日本の文化は、貴族も庶民も同じように楽しんでいます。

折り紙にも和歌にも、貴賤はありません。和歌の場合、国民歌集とも言うべき『万葉集』でわかるように、渡部昇一さんが言うところの「歌の前の平等」が成立しています。そういう均質性が、識字率にもつながっています。おそらく江戸時代以降、日本は世界で最高の識字率を誇り、その王座は揺らいだことがないでしょう。
折り紙は、日本人にとって鵬染じみの深い、幾つかの文化のルーツとなりました。

ひとつは、紋章です。江戸時代になると、武士だけでなく庶民の間にも家紋が普及しましたが、左右対称の複雑な紋章は切り込みの折り紙によって作られたものと考えられています。たとえば、4つに折り畳んだ紙にハサミで切り込みを入れて開くと、上下左右対称の形ができます。この切り込みの折り紙が、コンパスや分度器の代わりに用いられ、紋章が作られたのです。

もうひとつは、風呂敷です。正方形の紙を折り畳んで造形を作り出すという折り紙のアイデアから、同じく正方形の布を使って物を包むという風呂敷の文化が生まれました。風呂敷だけでなく、着物の畳み方も折り紙そっくりです。「折り目正しい」という言葉が示すような日本人の規律や秩序感も、折り紙の文化と言ってよいでしょう。
折り紙は、今でも日本やヨーロッパを中心に、古くからの折り方が伝承されていますが、その一方で、新しい折り方へのチャレンジも行なわれています。

2. そんななかで、世界的に注目されたのが「ミウラ折り」です。
東京大学の三浦公亮名誉教授が、1970年に考案したユニークな折り畳み方で、4個の菱形の繰り返しで構成され、このうち2個が山折り、残りの2個が谷折りとなっています。専門用語では「二重波型可展面」と呼ばれていますが、イギリス折り紙協会が「ミウラ折り」と名づけました。

三浦名誉教授は当時、NASA(アメリカ航空宇宙局)の研究センターでロケットや飛行機など構造物の強度の研究を進めていましたが、ロケットのような円筒状の構造物を縦に潰すと菱形が規則正しく並んだ模様ができるのにヒントを得て考案されたと言います。しかも、このような潰れた状態にもかかわらず、強度が増していることもわかりました。
ミウラ折りのメリットは、大きな紙を小さく折り畳んで収納したり携帯したりできることです。また、紙の対角線の端と端を持って左右に押したり引いたりするだけで、ただちに、しかも簡単に展開したり収納したりすることができます。


このため、人工衛星の太陽電池パネルをはじめ、折り畳み式の地図・カタログ・パンフレット類、それにスタッドレスタイヤのサイプ(切れ目)などに使われています。また、ミウラ折りにすると厚さが薄い金属類でも強度が増すために、軽量の耐圧容器にも応用でき、缶チューハイのパッケージから潜水艦までさまざまな用途に採り入れられ、実用化されています。

ミウラ折りは、新しい折り紙にチャレンジするなかで生まれたものではありません。しかし、まさに小さく折り畳んで携帯するという日本文化の王道の延長にある発明だと言ってよいでしょう。おそらく、三浦名誉教授が子どもの頃から知らず知らずのうちに体得してきた折り紙文化の発想やセンスが、ミウラ折りの発明という偉業につながったのではないでしょうか。



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