ヘルシーな寿司ブームで今や世界各地で食べることができる

世界に広がった寿司ブーム
世界に広まった寿司ブーム地球規模でブームを引き起こした日本発の文化「クールジャパン」のなかでも、世界中に受け入れられた食文化と言えば、何といっても寿司です。アメリカ、ヨーロッパだけでなく、目覚ましい経済発展を遂げている中国やブラジル、ロシアなど世界各地でヘルシー食品として絶賛され、「SUSHI」は今や、世界各地で市民権を獲得しています。魚を生で食べるという寿司の食文化は、世界の食文化に新たな食材とメニューを加えただけでなく、人々を健康にしたという点で、地球人類に大いに貢献したのです。

最初に寿司ブームが起こったのは1970年代のことで、舞台はアメリカ・カリフォルニア州の大都市ロサンゼルスでした。
ロサンゼルスには、日本料理店などが集まったリトル東京と呼ばれるエリアがあります。
1962年にそのうちの一軒の老舗日本料理店内に、カウンターとガラスのネタケースを備えた本格的な寿司バーができ、同様の寿司バーが少しずつ増えていきました。翌1963年にリトル東京に開店した東京会館はビュッフェ形式のレストランで、300人が入る広いダイニングルームに、てんぷらと鉄板焼き、中華、それに寿司の4つのコーナーを設けましたが、実は寿司の人気は今ひとつでした。

そこで、日本人の板前たちが考案したのが、カリフォルニア産のアボカドを使った巻き寿司です。当時、現地でマグロが手に入るのは夏だけだったため、マグロの代わりになる素材としてビーフやチキンを試したのですが、お客の受けがよくありませんでした。そこで、トロに似た食感のアボカドをカニと一緒に巻いてマョネーズを添え、巻き寿司にして出したところ、アメリカ人たちは紙みたいで嫌だと言って海苔をはがして食べましたが、味のほうは好評でした。これが、「カリフォルニアロール」のルーツです。

今では、アボカドとカニかまぼこを具に、海苔をご飯の内側にして巻く「裏巻き」にし、白ゴマをまぶすのが「カリフォルニアロール」の定番になっています。アメリカ人は、まず入門編としてカリフォルニアロールを食べ、酢飯や海苔に抵抗が無くなってから、実践編として普通の握り寿司に挑戦しているようです。カリフォルニアロールは、アメリカで生まれた寿司として日本にも逆輸入され、世界に広がっていきました。

こうして、ロサンゼルスで人気を呼んだ寿司は、1970年代になってアメリカ西海岸を中心に一大ブームを巻き起こしました。その背景には、人々の健康志向の高まりがあります。寿司はダイエット食品としてメディアにも取り上げられ、ハリウッドスターが寿司バーに通うのが話題になりました。また、カウンター越しに板前とやり取りしながら、マンツマンで食べたいものを注文する、という寿司のスタイルも受けたようです雨後の筍のように寿司レストランや寿司バーができ、マスコミに繰り返し取り上げられることによって、寿司ブームは瞬く間にアメリカ全土に広がっていきました。また、値段が安くなってからは、スーパーマーケットの定番商品としても売れていったのです。この間に、日本では考えられないような寿司のネタやアレンジが、次々に考案されています。

たとえば、クリームチーズを巻いた「フィラデルフィアロール」や、サーモンの皮を巻いた「ニューヨークロール」、揚げたカニを巻いた「スパイダーロール」、それにマグロのむき身にチリパウダーを混ぜたものを具にした「スパイシーツナロール」などが人気を呼んだと言います。
アメリカの寿司ブームは1980年代以降、ヨーロッパにも飛び火し、イギリス、フランス、ドイツと伝播していきました。ドイツでは、首都ベルリン市内だけで200店以上の寿司店があると見られ、スーパーなどで持ち帰り用の寿司が販売されています。
中国の場合、転勤や出張で滞在している日本人ビジネスマンが多いこともあって、北京や上海、広州などの大都市には、日式料理と呼ばれる日本食レストランや寿司店がたくさんありますが、ここ数年、中国人の間にも寿司ブームが到来しています。昼食や夕食に寿司店でテイクアウトした寿司を食べる中国人が増えているのです。

同じファストフードでも、寿司はハンバーガーや牛丼に比べて、安くてヘルシーなのが受けているようです。ブラジルでは日系人が多いこともあって、1990年以後、日本料理店が急増し、首都サンパウロの日本料理店は2000年代に入って500店を超えたと言われます。なかでも寿司が人気で、ローストビーフの寿司やアマゾン川に生息するピラルクーの寿司など、独創的な寿司が考案されています。

こうして世界中に広がっていくプロセスで、寿司はそれぞれの国の文化と融合し、さまざまなバリエーションを見せたわけですが、「家元」である日本としては見過ごせない逸脱のケースも出てきました。たとえば、イチゴと生クリームの巻き寿司とか、酢を合わせていないご飯を使うとか、酢飯とネタの間にワサビを忍びこませることはせず、ワサビを溶かした醤油に寿司をつけて食べるとかいった事例です。
また、寿司職人は従来、「飯炊き3年、握り8年」と言われ、魚の良し悪しを見きわめる眼力や、シャリ(ご飯)の握り方やネタの捌き方などの技は、素人が真似できない芸術の域に達しています。そうした寿司の真髄が海外はもちろん、国内でも失われつつあるのを放置しておいてよいのか、という疑間も拭えません。

世界各地の寿司バーや寿司レストランのオーナーの9割は、中国人や韓国人などアジア系の人たちで、日系人オーナーは1割以下と推定されています。外国人オーナーたちが、寿司の技や伝統を理解し、受け継いでいこうとしているとはとても思えないのです。このため、農林水産省では2006年、日本食の信頼度を高めようと海外の日本食レスランを対象に、正しい和食を認証する制度を導入する方針を打ち出しました。しかし、「日本が寿司ポリスを派遣する」としてアメリカのマスコミに強く批判されたため、実施を断念せざるをえませんでした。

代わって、NPO法人の日本食レストラン海外普及推進機構が、海外の日本食レストランに推奨マークを交付する計画を進めています。こんなヒトとカネを要することはせずに、たとえばホームページを立ち上げて、「正しい和食はこれだ」とスタンダードを示せばよいのです、強制ではなく。ある国の伝統文化が世界に広がっていく時、その文化本来のスタイルや精神を守るべきか否か。ここは思案の分かれるところです。

しかし、寿司は、魚介類に米を加えて発酵させた16世紀の「なれ鮨」がルーツとされますが、その後も押し寿司、巻き寿司、ちらし寿司、そして江戸前の握り寿司と、時代や地域によって多様化し、大きく変容を遂げてきました。そうだとすれば、世界各地で起きていることも、その延長上にあると考えるほうが自然ではないでしょうか。




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