日本を徹底分析して世界でのイメージやランキングを公開
目次
胃カメラの開発がガンなど病気発見の精度が向上した
1.胃カメラを入れて病巣を撮る日本人の3人に1人はガンで亡くなっています。 厚生労働省の人口動態統計によると、2009年に死亡した人のうち、最も多かったのがガン(悪性新生物)で約34万人にのぼり、死亡者全体の30.2%を占めました。ついで、心疾患が約18万人(15.8%)、脳血管疾患約12万人(10.7%)などとなっています。ガンの死亡率は、脳血管疾患に代わってトップとなった1981年以降、ずっとトップの座を爆走しています。
また、ガンの死者を部位別に見ると、最も多かったのが肺ガンで、ついで胃ガン、大腸ガンの順になっています。 ガンが発見されてから5年後の生存率を見ると、1970年代は3割程度でしたが、2000年には45%程度まで上がったというデータもあります。ガンによる死亡が圧倒的に多い状況は変わっていませんが、早期発見、早期治療によって治るケースも増え、「ガンは不治の病」という常識は徐々に覆りつつあります。
とくに、1960年代から1990年代にかけて、肺ガンや肝臓ガン、子宮ガンなどの死亡率が急増するなかで、胃ガンの死亡率は逆に減少してきました。これは早期発見、早期治療の効果が出たものと見られます。この早期発見に寄与してきた検査のひとつに、内視鏡検査があります。内視鏡とは、先端に小型カメラを内蔵した太さ1cm程度の細長い管を回や鼻、肛門から挿入して、胃や大腸などの内部を観察する医療機器です。
日本では年間1500万人もの患者が、内視鏡検査を受けていると見られます。胃のなかの病巣をカメラで撮影するなどという、かつての常識では考えられない技術が実用化されたのです。そして、この内視鏡検査の先駆けとなった胃カメラを開発したのが、日本人の医師と技術者のチームでした。1950年、東京大学医学部附属病院分院の医師だった宇治達郎とオリンパス光学工業(現在のオリンパス)の杉浦睦夫、深海正治の3人が「ガストロカメラGTII」を開発し、日本臨床外科学会で発表しました。ゴム管の先にレンズや電球などを組み込み、先端部を動かす機器が付いていました。 戦争中、中国戦線で陸軍軍医をしていた宇治は復員後、東大分院の勤務医となりました。
そこで、胃ガンの患者を診るようになりましたが、手遅れのケースが多く、胸を痛めていました。当時の日本はガンが急増し始めた時期で、ガンによる死者の半数以上が胃ガンでした。そして、胃ガンの死亡率は90%を超え、まさに「不治の病」だったのです。胃の内部をカメラで撮影できれば、ガンを早期に発見できると考えた宇治は、伝手をたどってオリンパス光学工業に単身、乗り込みました。宇治に説得されて杉浦らは、胃カメラの開発に取り組んだのです。
胃の内部を観察するという胃鏡は、1868年にドイツの医師クスマルが初めて開発したとされます。クスマルは、剣を飲み込む大道芸にヒントを得て、長さ47cm、直径1.3cmのまっすぐな金属管を使って胃の観察を行ないました。
その後、1898年にはドイツのラングらが胃のなかにカメラを入れて撮影する試みを行ないましたが、患者に苦痛を与えるために実用化されませんでした。このため、杉浦らは患者に苦痛を与えずに撮影できることを目指して胃カメラの開発に取り組み、世界で初めて実用化に成功したのです。
2. 1960年代になると、光ファイバーを使ったファイバースコープ付き胃カメラが登場します。ファイバースコープは柔軟で、胃のなかをリアルタイムで観察することができました。 ちなみに、この光ファイバーを発明したのも、日本人です。ミスター半導体と呼ばれ、東北大学総長などを歴任した西澤潤一名誉教授が世界で初めて発明しました。
1964年に 特許を申請しましたが認められず、光ファイバーの特許は外国企業に取られてしまいました。日本人の発明にもかからず、日本企業は光ファイバーを使用する際に特許料を支払わなければならなくなったのです。特許庁の大失態でした。 1970年代にはさらに、CCD(電荷結合素子)を使った内視鏡が登場し、複数の医師やスタッフがモニターのビデオで胃の様子を観察し、ガンを確認することができるようになりました。また、胃だけでなく、食道や大腸などにも対象が広がるとともに、診断するだけでなく、ポリープを切断する治療もできるようになっています。
最近は、鼻から入れる極細の内視鏡や、デジタルカメラを内蔵したカプセル内視鏡も登場しています。カプセル内視鏡というのは、患者が飲み込んだカプセルが体を通る際に連続撮影をし、画像を自動的に送信してモニターに映し出す装置で、患者の負担がより軽くなりました。
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