日本を徹底分析して世界でのイメージやランキングを公開
目次
乾電池は日本の発明でその生い立ちを教えるよ
1.日本の携帯文化を支えた乾電池乾電池は地球上で、年間400億個以上が使われていると言われています。その乾電池が日本人の発明であることを知っている人は、そんなに多くないかもしれません。だいたい電池に乾電池と湿電池があって、乾電池が発明されるまでは取り扱いが厄介な湿電池が使われていたことを知っている人も多くないでしょう。
電池自体は1800年にイタリアの物理学者だったアレッサンドロ・ボルタによって発明されました。導線でつないだ鋼板と亜鉛板を塩水に浸すと、電気が流れることを発見したボルタは、この原理を使った湿電池を製作し、イギリスの王立学会で発表しました。このボルタの電池は、中学校の理科で実験の教材に使われているため、日本人の多くはよく知っています。
しかし、ボルタの電池は、電極が腐食したり水素が発生したりして寿命が短いのが難点でした。この欠点を克服したのが、フランスの化学者ジョルジュ。ルクランシェが開発した湿電池でした。二酸化マンガンと炭素の混合物を陽極に、亜鉛を陰極にして塩化アンモニウム溶液に浸したもので、二酸化マンガンの酸素と水素が反応して水になるために水素ガスが発生せず、長時間の使用が可能になりました。この電池の発明によって、電池はいよいよ実用化の段階を迎えました。
しかし、ルクランシェ式湿電池にも欠点がありました。電解液の塩化アンモニウムは毒性が強く、ひんぱんに補充しなければならないだけでなく、冬は電解液が凍結するために、使用するのが厄介だったのです。また、金属板の汚れをこまめに除去しなければならず、非常に不便な電池でした。このルクランシェ式湿電池の難点を改良し、世界で初めてマンガン乾電池を発明したのが、屋井先蔵という日本人です。
越後長岡藩(現在の新潟県長岡市)の武士の子として生まれましたが、明治維新後、時計店で丁稚奉公しながら勉学に励み、永久自動機械の発明を志しました。東京で高等工業学校(現在の東京工業大学)への進学を目指したのですが、三度失敗してしまいます。そして、玩具メーカーで職工としてアルバイトしながら電気時計の開発に取り組み、1891年に当時の農商務省特許局から特許を取得しています。
ところが、電気時計を動かすために使ったルクランシェ電池の使い勝手があまりに悪かったため、屋井は電気時計を開発するかたわら、もっと手軽に扱える電池の開発にも取り組みました。試行錯誤の末に、電解液をペースト状にしたり陽極の炭素棒をパラフィン処理したりすることで、液漏れや液の凍結を防ぐ方法を編み出し、この新しい電池に「乾電池」と命名しました。
屋井は1892年に乾電池の特許を申請し、翌93年にアメリカのシカゴで開催された万国博覧会に出品しています。大森房吉博士が作った地震計の電源として公開され、世界から注目を集めました。このため、屋井はすでに立ち上げていた屋井乾電池合資会社で乾電池の製 造販売を始めましたが、1894年に勃発した日清戦争で、日本軍が使う通信機や懐中電灯などの電源として使われ、一躍有名になりました。屋井はその後も乾電池の改良を重ねて製品を世に出し、「乾電池王」と呼ばれたのです。
その後乾電池は、日本軍や企業などが使用する特別な品物から家庭の常備品となっていきましたが、その新しい時代を切り拓いたのが松下幸之助です。松下は、松下電気器具製作所(現在のパナソニック)を設立。1927年に「ナショナルランプ」という名前の手提げランプを発売し、大ヒットさせました。松下は当初、このランプの電源に使う乾電池の生産を他社に委託していましたが、途中から自社生産に切り替え、1931年にナショナルブランドの乾電池の発売を開始します。
ちょうど手提げランプや懐中電灯だけでなく、携帯ラジオなどの電化製品が続々と売り出され、普及していくのに伴い、乾電池も爆発的に売れていきました。こうして、乾電池は、取り扱いが厄介だった湿電池に取って代わってから40年足らずで、家庭の生活必需品としてごく普通に使われるようになったのです。
2. 電池が小型で安価になったことによって、日本人が好む携帯文化がよりいっそうの充実を見せることになりました。電話をはじめ、CDラジカセ、デジタルボイスレコーダー、電卓など、電源を必要とするために、もとは室内でしか利用できなかった機器を携帯し、外で利用することができるようになりました。乾電池は、縁の下の力持ちとして日本の携帯文化を支えたのです。
パナソニックの乾電池は、電極に使う材料の変遷に伴ってマンガン乾電池、アルカリ・マンガン乾電池、オキシライド乾電池と主力が推移してきましたが、2008年にはアルカリ・マンガン乾電池でありながらオキシライド乾電池の性能を超えた第4世代の「エボルタ」が発売されました。
エボルタは、省エネという時代の要請に応えた乾電池で、価格については2割しかアップしていませんが、使用推奨期限が10年と従来の2倍に寿命が延びています。これは乾電池としては世界一の長寿命で、ギネスブックで知られるギネス・ワールド・レコーズからも認定を受けています。2009年には世界60カ国で、3億個を販売する計画で生産体制を整えていますが、まさに省エネというニーズに応え、人類に大きく貢献していると言えるでしょう。
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