フランス人の目に日本人はどのように映ったのでしょうか?

フランス人の目に日本人はどのように映ったのでしょうか?
フランスの地を最初に踏んだ日本人は支倉常長の使節団です。これはあまり知られていないことですが実に象徴的だと思います。
フランスは常長が目的とした国ではありませんでした。ジェノバに行く途中で、いまはリゾート地として有名になっていますが、南フランスのサンペトロという町に立ち寄っただけです。しかし、戦後になって実に興味深い資料が、ある図書館から見つかりました。当時のサンペトロの領主が支倉使節の一行を観察し、記録したものです。

領主の目に日本人はどのように映ったのでしょうか。領主の筆はこのように記しています。
日本人は背が低く、日に焼け、鼻は低く扁平だ、というのは観察したとおりです。
日本人を南からきた黒い人種、つまり黒人の一種と見ているふしがうかがえます。

長髪を白い布で結び、服装はジェスイット教の法師のようだとも書いています。外出に当たっては大使は濃い紫の服を着、随員は灰色の服装で、その上にスペイン風のマントをつけている、とあります。教会でも常に刀を差していて、その刀はいささか反っていて極めて鋭利で紙さえ切れる、というのは日本刀の特徴をよくとらえています。

大使、つまり常長が随伴の僧ソテロと食事する場面も書かれていますが、肉は三本の指で操る、とあります。これは箸のことでしょう。ネギとキャベツのスープを飲んでいる、というのは味噌汁のことではないでしょうか。食事の仕方も興味をそそったようで詳細です。料理人が大皿を運んでくると、従者が蓋を取って銘々の分を平皿に取り分ける。それが済むと、小姓が平皿を各人のもとにもって行く。それが何度も何度も繰り返された、とあります。

寝るときの様子はちょっと異様です。掛けものは用いず、全裸で敷物の上に横たわる、としています。暑かったのでこのようになったのでしょうか。常長は仙台藩士ですから、随員には東北地方の人が多かったはずです。東北地方には全裸になって寝るという古い習慣がありました。たまたまそういう随員の様子を見た、ということなのかもしれません。

領主が大変驚いたことがあります。一行の誰もが紙をもっていて、それを懐にしのばせ、一回一回鼻をかんでは捨てるというのです。民衆がこれを記念品として、殴り合いまでして奪い合った、とも記しています。中でも支倉常長のものは喜ばれた、といいます。このことは当時のフランスでは紙が非常に珍しかったことを示しています。

領主の筆致は軽蔑しているというのでもないし、感心しているというのでもありません。異なる文化に異常なほどの好奇心を抱き、それを文章に定着させようとしている様子がうかがえます。

ローマのボルゲーゼ美術館に侍姿の支倉常長の肖像画が所蔵されていますが、実はこの絵を描いたのはフランス人なのです。ローマに留学してボルゲーゼ家に滞在していたクロード・ドゥルエというフランス人画家です。別に、同じくフランス人画家のクラウティアが描いたという記録があり、いや、画家はやはりイタリア人だという説もありますが、描き方からいってドゥルエに間違いありません。

このように日本とフランスの初期の出会いに文化が深く関わっていることは象徴的です。
17世紀以降ブルボン(ルイ)王朝の時代にしても、それに続くフランス革命以後にしても、ヨーロッパの文化をリードしてきたのはフランスである、というのは興味深い事実です。国家と文化が表裏一体となっているフランスに日本は注目し、尊敬し、親しみを寄せてきました。

文学や美術、音楽といった芸術の分野はもちろん、ファッションなどにも象徴的に見られるような生活の隅々にまで溢れる繊細なセンスを日本人は吸引し、フランスといえば文化と受け止めるのが日本人の感覚的な習慣にさえなっています。

その日本はどうなのか。日本人自身はさほど自覚してはいませんが、日本自体が文化大国なのです。そして日本の文化にもっとも注目し、尊敬し、親しんでいるのはフランスである、といえると思います。

その一つの結晶をフランス印象派美術のジャポニズムに見ることができます。北斎、広重を評価したのはフランス人の芸術家たちでした。印象派のマネ、モネ、セザンヌ、そしてゴッホといった巨匠たちに影響を与え高いレベルの表現をもたらしたジャポニズムは、取りも直さず日本の文化の高さを証明するものである、ということができます。

それと同時に、フランスがドイツと違って「ニヒリズム」の思想を強く打ち出すことがなかったのは、おそらく、ジャポニズムにより、自然の豊さを学んだからだと思われます。その点は、「ニヒリズム」が強く表れたドイツと異なります。ドイツは日本の美術をフランスほど深く受容できなかったからだと思います。




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